配水塔の設計と建設
水戸市水道低区配水塔は、1930年(昭和5年)に工事が開始され、1932年(昭和7年)に完成しました。設計者の後藤鶴松は、津、鶴見、熱海、真鶴など茨城県外の水道工事にも携わった経験を持つ水道技師であり、このプロジェクトに強い思い入れを持っていました。後藤は、自身が設計した配水塔に特別な愛着を持ち、娘に「塔美子(とみこ)」と名付けたことでも知られています。
構造と意匠の特徴
水戸市水道低区配水塔は、鉄筋コンクリート造の円筒型の3階建て構造で、高さ21.6メートル、直径11.2メートルの大きさを誇ります。塔の中央部にはバルコニー風の回廊があり、頂部には塔屋が設けられています。また、1階の入口上部にはゴシック風の尖塔アーチが施され、壁面には消防ホースを模したレリーフが飾られています。これらの意匠は、配水塔のデザインをより魅力的なものにしており、昭和初期のモダンな建築様式を象徴しています。
配水塔の役割と運用終了
この配水塔は、芦山浄水場からの処理水を受け取り、下市地区に供給する役割を果たしていました。また、高区配水塔からは、上市と呼ばれる水戸市北西部の台地地区に水を供給していました。このように、水戸市の水道システムは、高低差約24メートルの地区間で2つの配水塔を利用することで効率的に運用されていました。
2000年(平成12年)3月にこの配水塔は稼働を終了しましたが、その後も文化財として保存されています。また、ライトアップなどのイベントも行われ、市民に親しまれる存在となっています。
登録有形文化財とその他の評価
水戸市水道低区配水塔は、1996年(平成8年)に国の登録有形文化財に指定されました。これは、同年に導入された文化財登録制度の第1回目の登録であり、その際に茨城県からは本配水塔と水戸商業高校旧本館玄関が選ばれました。この登録は、配水塔の優れた意匠と文化的価値が評価された結果です。
さらに、2006年(平成18年)には「ヘリテージング100選」に選定され、2014年(平成26年)には土木学会選奨土木遺産にも選ばれました。これらの選定は、配水塔の歴史的価値とデザインの優れた点が広く認められたことを示しています。
敷地内の構造物と現在の状況
水戸市水道低区配水塔の敷地内には、流量計室や茶室風の鍛冶舎、明治時代に使用されていた竜頭共用栓のレプリカなどが存在します。これらの構造物は、配水塔と共に歴史的な価値を持ち、水戸市の近代化の象徴として保存されています。
敷地内は現在公園として整備されており、隣接する三の丸緑地には災害用の耐震型循環式飲料水貯水槽が設置されています。この貯水槽は、2011年の東日本大震災時に実際に給水活動を行い、市民の生活を支えました。
配水塔は、ライトアップなどのイベントを通じて今でも市民に親しまれています。その美しい姿は、水戸市の歴史と共に現在も生き続けています。