創業と歴史的背景
牛久シャトーの創業
牛久シャトーは、1903年に神谷傳兵衛氏によって創業された、日本初の本格的なワイン醸造場です。当時、明治政府は日本酒の消費量削減と輸出産業の創出を目指し、ワイン製造を奨励していました。神谷傳兵衛氏はフランスで学んだ技術を活かし、牛久にこの醸造場を設立しました。
創業者:神谷傳兵衛氏の背景
神谷傳兵衛氏は1856年、三河国に生まれました。横浜のフレッレ商会でワインに出会い、その後、東京・浅草で「みかはや銘酒店」として濁り酒の一杯売屋を開業しました。この店は後に「神谷バー」として広く知られるようになりました。1886年には「蜂印香竄葡萄酒」を商標登録し、このワインが人気商品となりました。
牛久醸造場の発展
1894年、神谷傳兵衛氏は養子の傳蔵氏をフランスに留学させ、ボルドーの高級ワイン製造法を学ばせました。傳蔵氏が帰国した後、傳兵衛氏は茨城県稲敷郡女化原に土地を購入し、ブドウの栽培と醸造場の建設を進めました。そして、1903年9月に「牛久醸造場」が完成し、ブドウの栽培からワインの醸造、貯蔵、瓶詰出荷までを一貫して行うことができる施設が誕生しました。
明治・大正時代の成果
牛久醸造場で生産されたワインは、国内外で高い評価を受けました。1903年にはイギリスの万国衛生食料品博覧会で名誉金牌を受賞し、1904年にはパリの博覧会でも金賞を獲得しました。ワインの生産量は1902年の50石から1904年には180石に増加しましたが、当時の日本ではまだワインの需要が少なく、生産規模は安定していました。
昭和・平成・令和以降の変遷
太平洋戦争後の農地改革により、神谷葡萄園は小作地として解放され、牛久醸造場も規模を縮小しました。その後、1948年には合同酒精株式会社の子会社として旭商会株式会社が設立され、牛久シャトーの営業が再開されました。1976年には旧貯蔵庫を改装したレストラン「キャノン」が開店し、1996年には地ビール工場が設置されました。
重要文化財の指定と復旧
2008年6月には、旧事務室、旧醗酵室、旧貯蔵庫の3棟が国の重要文化財に指定されました。しかし、2011年の東日本大震災ではこれらの建物が被害を受け、復旧工事が行われました。2016年に工事が完了し、現在も多くの観光客が訪れる重要な観光地として存続しています。
現在の状況
2018年に飲食施設の閉店が発表されましたが、地元商工会や市役所の働きかけにより、施設の存続が決まりました。また、2020年には山梨県甲州市の宮光園と共に日本遺産に認定され、その歴史的価値が再評価されています。
本館(旧事務室)の建築詳細
本館はルネサンス様式のレンガ造りの2階建て建物で、元々は桟瓦葺の屋根が、後に銅板葺に変更されています。建物の東西両端はマンサード屋根となっており、各所に屋根窓が設置されています。中央部の1階部分は中庭へと抜ける通路となっており、その通路を飾る半円状のアーチには「CHATEAU D.KAMIYA」の文字が白漆喰で描かれています。2階部分にはトスカナ式の円柱が配置され、その上には小さな半円状アーチを持つパラディアン・モチーフが施されています。これらの柱とアーチ、そして上部のペディメントも白漆喰で装飾され、ペディメントには蜂とブドウが描かれたこて絵が見られます。
本館内部の特徴
本館の1階東側は和室が設けられており、西側は事務室として利用されています。内部には4本の円柱やカウンター台が残されており、当時の面影が感じられます。2階は洋室が主体で、大ホールや貴賓室、バルコニーなどがあり、迎賓館として使用された歴史を伝えています。かつては本館の東側に「日本館」と呼ばれる和式の建物があり、日本庭園も設けられていましたが、1976年以降に失われ、現在は現存していません。
施設概要
神谷傳兵衛記念館(旧醗酵室)
神谷傳兵衛記念館は、レンガ造りの2階建て建物で、屋根は元々の桟瓦葺から銅板葺に変更されています。建物の1階中央にはアーチ状の入り口があり、その上の2階部分にもアーチの架かった開口部が特徴です。内部にはワイン製造に関する写真や道具が展示されており、当時の醸造場の様子を伝えています。
レストラン「キャノン」(旧貯蔵庫)
レストラン「キャノン」は、平屋建てで元々は桟瓦葺の屋根が後に銅板葺に変更されました。1976年にレストランとして開業し、内部は木造トラス小屋組が特徴的な造りとなっています。西側の丸窓を改築して出入口や大きな窓にするなどの変更が行われましたが、建物の歴史的な趣を保っています。
ラ・テラス・ドゥ・オエノン
牛久シャトー内には直営のビアレストラン「ラ・テラス・ドゥ・オエノン」があり、牛久ブリュワリーで醸造された地ビールと和洋折衷の料理を楽しむことができます。外部には広々とした芝生のエリアがあり、野外バーベキューも可能です。
ブドウ畑と牛久ワイナリー・ブルワリー
牛久シャトー内には、現在約1000本のブドウの木が植えられています。牛久ワイナリーと牛久ブルワリーは、オエノンホールディングスの子会社である合同酒精株式会社が運営しており、2017年には約2トンのワインを生産しました。特に牛久シャトービールは、ヘレス、デュンケル、ピルスナーなどがあり、ヘレスはインターナショナル・ビアカップで複数回入賞しています。