磯遊びの楽しさ
大洗海岸は、大洗町の南側の砂浜が広がる「大洗サンビーチ」とは異なり、至る所にゴツゴツとした岩場が広がっています。そのため、磯遊びには最適な場所となっています。潮が引いている時間を狙って、海岸沿いを歩いてみると、あちこちに潮溜まりができていることに気づくでしょう。波に濡れても大丈夫な服装と滑らない履物を用意し、これらの潮溜まりをじっくりと観察してみると、簡単に海の生き物たちに出会えるはずです。
手の届くところには、魚やヤドカリ、ヒトデ、ウニ、アメフラシなどが生息しています。これらの生き物を網などを使って捕まえてみたり、直接触れてみたりすることで、海の生き物たちとの貴重な触れ合いを体験できます。ザラッとしたヒトデの感触や、やわらかなアメフラシの感触は、海の世界とのつながりを感じさせてくれるでしょう。
大洗海岸と那珂川エリアの地質と自然
大洗海岸・那珂川エリアは、海抜20~30メートルの大洗台地に広がる砂丘とクロマツの林が特徴的な地域です。このエリアに広がる「大洗層」は、新生代に形成された最大深さ1000メートルにもおよぶ礫岩の岩盤であり、大洗海岸ではその一部が露出し、岩礁として連なっています。
南北1.8キロメートルにわたる海岸線に沿った大小の岩礁に荒波が打ち寄せる光景は、素朴で清雅な美しさを持ち、観賞価値が高いです。この岩礁は、大洗町の文化財「名勝大洗」として大切に保全されています。
また、大洗海岸は、かつて潮湯治の地としても栄え、詩人・山村暮鳥が結核療養のためにこの地を訪れ、生涯を閉じた場所でもあります。明治時代に始まった海水浴は、もともと西洋から導入された医学の一環として開始されたものでした。皮膚病などの病気の治療のために、海水浴場が作られ、海水冷浴による潮湯治がおこなわれていました。現在でも、多くの人々が訪れる癒しの場として親しまれています。
那珂川からの豊富なミネラル供給
この岩礁には、那須岳山麓を源とし、栃木県・茨城県を流れ、大洗から太平洋に注ぐ那珂川から豊富なミネラルが供給されています。那珂川流域は古来より豊かな穀倉地帯として知られ、常陸国はその豊饒さを「常世の国」と称しています。那珂川流域で大雨が降るたびに、大洗海岸近くの海面は泥色に染まり、多様な海藻が繁茂するための栄養が供給されます。これにより、海生生物が生息しやすい環境が形成され、古くから採藻漁や素潜り漁が盛んに行われてきました。大洗海岸は、命が芽生える豊かな海として地域の暮らしと深く関わってきたのです。
大洗の歴史と文化
「大洗」という名前は、平安時代の書物『日本文徳天皇実録』に記された斉衡3年(856)に大洗磯前薬師菩薩明神(現在の大洗磯前神社)が創建された記録に由来します。戦国時代に焼失した大洗磯前神社は、江戸時代に水戸藩の徳川光圀により再興され、享保15年(1730)にほぼ現在の形になりました。大洗海岸と那珂川エリアは、信仰、漁労、保養、観光が融合した由緒ある地域です。
大洗公園:豊かな自然が広がる風致公園
大洗公園は、名勝大洗の岩礁と松林の美しい海自然を楽しめる風致公園で、多様な海浜植物が繁茂し、岩場では海生生物が観察できます。春から夏にかけては、磯遊びを楽しむことができ、民謡「磯節」で岩礁と松林の美しさが歌われています。素朴で豊かな海自然を親水空間として楽しめるこの公園は、県営都市公園および大洗県立自然公園の2つに指定されています。
多様な植物と生物の宝庫
常磐沖では暖流と寒流が交わり、多様な海浜植物が混在しています。ハマゴウ、テリハノイバラ、ハマヒルガオ、コウボウムギ、ハマエンドウなどが砂浜を覆うように繁茂しています。また、海岸背後を覆うクロマツ林は防風・防砂のために江戸時代に植えられたものであり、「森林浴の森日本百選」にも選定されています。
岩礁は新生代に形成されたジオサイトで、太平洋の荒波が太古の礫岩を打つ光景は神々しく、詩情を醸し出します。岩礁に繁茂する海藻の種類は日本で最も多いとされ、水面下には海藻の森が広がっています。春から夏にかけての引き潮時には、多様な海生生物が観察でき、磯遊びを楽しむことができます。
鹿島灘の自然と生態系
鹿島灘の地理と歴史
鹿島灘は、茨城県東部の大洗岬から千葉県東部の犬吠埼に広がる北太平洋の海域です。大洗町から神栖市までの沿岸は砂浜が続いていますが、ダム建設の影響で、那珂川や利根川からの砂の供給が減少し、砂浜の浸食が著しくなっています。このため、ヘッドランドの整備が進められています。
鹿島の地は、古くから鹿島神宮の聖域として知られ、境内には自然の砂浜が残っています。また、鹿島灘には大規模な掘込式港湾である鹿島コンビナートが位置し、鹿島臨海工業地帯の中核を成しています。
鹿島灘の豊かな自然環境
鹿島灘の海底は水深140メートルまで沈み込む大陸棚が続いており、また太平洋から流れ込む日本海流(黒潮)と三陸沖から流れ込む千島海流(親潮)がぶつかり合う潮目となっています。このため、一帯は水産資源が豊富であり、サンマ、イワシ、イカ、ハマグリなどが獲れます。大洗町、鹿嶋市、波崎町、銚子市にはそれぞれ漁港が存在し、特に銚子漁港は日本有数の漁港として知られています。
さらに、大洗町周辺では冬の味覚としてアンコウが有名であり、多くのアンコウ料理の店が軒を連ねています。一方で、ハマグリの漁獲高は2010年代までに激減しており、茨城県では採取道具の制限や稚貝の採取禁止などの規制が設けられています。
鹿島灘は、多様な生物種が利用する重要な生態系を持っています。鳥類では、アホウドリやクロアシアホウドリが生息しており、コアジサシやカンムリウミスズメ、ケイマフリ、コオリガモなどの貴重な種も観察されています。ウミガメでは、アカウミガメが沿岸部で最もよく見られ、産卵地として利用されています。また、鯨類ではスナメリが沿岸部で最もよく見られるほか、沖合には他のイルカ類やコビレゴンドウが生息しています。
さらに、絶滅危惧種の大型鯨類の回遊経路としても重要であり、セミクジラがかつてこの一帯で越冬や繁殖を行っていた可能性も指摘されています。鹿島灘の豊かな自然環境は、貴重な生物種の保護にとっても重要な役割を果たしているのです。